ピケティ旋風、どう見るべきか
[ソウル新聞・開かれた世界・2014年7月2日]
ユン・ソンミョン 韓国保健社会研究院 研究委員・高麗大学経済学科兼任教授
昨年フランス語で出版されたトマ・ピケティ教授の『21世紀の資本』(Capital in the Twenty-First Century)が、今年初めに英語に翻訳されて以来、世界的に大きな波紋を広げている。研究結果の重量感が大きいため、研究内容を巡る論争もそれだけ激しいようだ。ノーベル経済学賞受賞者を含む名だたる経済学者たちが、進歩と保守の陣営に分かれて激しい論争を繰り広げている。間もなく韓国語版が出版される予定だというので、我が国でもピケティの研究結果と政策処方に対する論争が本格化しそうだ。
ピケティ教授は、従来の経済学の手法が抽象的な仮定を前提に精巧なモデルを構築するため、複雑なモデル構築に費やされた努力に比べて、経済現実に対する説明力は低いと指摘する。適切な統計資料に基づき、正確に現実経済を理解してこそ、正しい政策処方の導出が可能であるという立場だ。このような問題意識の下で、ピケティ教授は1800年代初頭から2010年前後まで、主要国の所得分配の推移を分析している。日本を含む主要先進国に対する分析の結果、資本所得である利子率(平均5%)が経済成長率(平均1.5%前後)より格段に高く、資本が生み出す高い地代(Rent)を基に、急速に資本が蓄積されたという結論を導き出した。所得を資本所得と賃金所得に分けた場合、賃金所得に比べて資本所得の比重が格段に高く、資本所得が所得二極化の主因となっているとの評価だ。
所得二極化は先進国と新興国の双方に共通する現象ではあるが、先進国の中でもヨーロッパ大陸(英国を除く)と米国の所得不平等の程度が大きく開いている点が、論争増幅の背景にあるようだ。1900年から1910年の間はヨーロッパ大陸の所得不平等が大きかったが、その後米国で拡大した不平等が1970年から深化しているからだ。1970年、両地域の所得上位10%の占有率(米国34%、ヨーロッパ30%)は大きな差を見せなかったが、2010年には大きな差(米国48%、ヨーロッパ35%)が出ているためである。
ピケティ教授の本の内容の中で筆者の目を引く箇所は、米国とフランスの最低賃金の変化の推移である(309ページ)。2013年の購買力基準で、1950年の両国の時間当たり最低賃金(米国3.8ドル、フランス2.1ユーロ)が、2013年には大幅に逆転(米国7.3ドル、フランス9.4ユーロ)したのである。クリントン政権で労働部長官を務めた代表的な進歩的学者であるバークレー大学のライシュ教授が主張する、低賃金労働者の量産により米国経済活動人口の相当数が法定労働時間を満たしても最低生計費に満たない所得しか得られないという批判を立証する統計値であると言える。
このような統計値を基に、所得二極化の解消のためにピケティ教授が下した処方は、世界的な政策協調の必要性である。高収益と低税率を求めて世界中を回り歩く資本を適切に統制するための個別国家の政策的努力には限界があるため、地域別の政治的統合が唯一の解決策だということだ。このようなピケティ教授の研究結果に対する批判も少なくない。現実味に欠ける政策処方とともに、研究手法の誤りの指摘が代表的である。今後、研究内容に対する追加的な検証が必要ではあるが、200年にわたる統計推移が揺らぐほどの誤りはないという評価の方が多いようだ。だとするなら、ピケティ旋風が我々に示唆するものは何だろうか。ピケティ教授が指摘した地域別所得二極化の深化傾向は、所得再分配政策と福祉政策の方向性に関する論争を深める触媒になると思われる。ヨーロッパ大陸より英米型に近い我が国社会の特性上、所得二極化の推移と所得分配政策の有効性に関する論争が本格化しそうだ。
ますます共通の認識の形成が困難になる状況において、信頼性のある統計指標は対話の窓口となり得る。このような状況で、代表的な所得分配指標であるジニ係数の算定に関する論争が少なくない点に留意すべきだろう。高所得者を含めてジニ係数の算定対象者を拡大した場合、ジニ係数が上がり所得不平等度が高まっているからだ。今こそ我々の現実を正しく代弁する統計生産に拍車をかけるべき時であると思う。社会構成員の相当数が統計指標を納得できない状況では、政策推進のための動力確保が困難だからである。
出典:ソウル新聞(原文を見る)
